映画『チルド』公開記念 関係者座談会 Part 2           岩崎監督✕OND°小林洋介ディレクター

テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて大ヒット公開中!

“生きながら、死んでいる”
「第76回ベルリン国際映画祭」にて国際批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞したほか、多くの海外賞にも出品や入選が決定しており、公開前から話題となっている本作。
世界観と地続きで描かれるスピンオフ小説が、KADOKAWAにて書籍化も決定している。
岩崎監督は初長編映画にして、なぜこんなにも話題になる作品をつくり出せたのか?

岩崎監督をはじめ、前作『VOID』でも制作プロデューサーを務めた井上 淳プロデューサー、長束雄介プロデューサー、そして編集を務めたOND°エディター大森優希、NOTHING NEWが映画『チルド』で再集結。
さらにPMとして初映画制作となる鈴木 遥PM、オリジナル作品の制作経験があるOND°ディレクター小林洋介を加えて、座談会を開催!全3回にわたってお届けいたします。

  井上プロデューサー   長束プロデューサー  大森エディター    小林ディレクター   岩崎監督        

岩崎監督✕OND°小林洋介ディレクター(聞き手:井上プロデューサー、長束ラインプロデューサー、大森エディター)

短編映画『viewers:1』や、ドラマ『CITY LIVES』など、オリジナル作品の脚本や監督経験のある小林ディレクターを交え、「オリジナル作品を撮ることの難しさ」や「演出と監督の違い」など、クリエイター目線で語っていただきました。

——品良く、嫌なものをつくる——『チルド』は嫌な顔の品評会

小林
「『VOID』みたいに先鋭的でかっこいいんだけど、ちょっととっつきにくい」という作品を想像していたら、しっかりエンタメでした。各シーン全部面白いし、ずっと嫌な感じと嫌な空気があるんだけど、ちゃんとクライマックスもあって、“品良く嫌なもの”をつくってるよね。キャストさんたちの表情もすごくいいし。「超よくできてるじゃん!」と悔しかったです(笑)。
僕も長編は撮りたいけど、長編映画は短編映画ともドラマとも違うし。その悩ましいところを、見事に解決していると思いました。完全にCM の体制で作ったんですもんね。

岩崎
「結局何が言いたいんだっけ」みたいなメッセージ性と五感を設計して、そこから逆算するというのは、確かにCMの演出では育まれないスキル。そこはNOTHING NEWや、一緒につくるスタッフみんなに導いてもらいました。

長束
でも撮影は実質6日間だし、現場の岩崎の判断力の早さがなければ成立しない香盤だったよね。

岩崎
アングルを一目見て「なんか違う」と思ったらすぐ変更するし、めちゃくちゃコンビニに行って、アングルを確認した。LEGOで小さいセットを作って、人形で各キャラクターの動きとかを確認して。
それだけ準備して撮影したのに、それでも「え!?」と思ったのが編集。大森さんと一緒に全カットをマグネットにして組み替えたりバトルをしながらの編集作業だったよね(笑)。リニアな時系列で進んでいく作品じゃないし、イメージの連続みたいなところがあるから。

小林
特に店長の「ゆっくり表情が死んでいく顔」がすごく好きだった。 時間をかけた表情変化は僕も好きでよく撮るんだけど、あそこまでゆっくりはなかなかできない。CMディレクターとしては「時間内に上手にまとめること」が大切だけど、『チルド』はちゃんと演出されつつ感覚的に気持ち悪いとこまでしっかり過剰で。上手に崩しているな、と思いました。

岩崎
あのシーンの演出はすごくこだわった。あのシーンから映画が始まるというか、不穏な雰囲気に向けてゆっくりフェーダーが下がっていくような、“映画の真ん中”だから秒数まで決めて撮ったね。
編集は大森さんの力だね。CMはリズムが存在するから、ディレクターは無意識に頭の中で「ここが編集点になるだろうな」と思いながら映像を見ちゃって、逸脱が起きにくいんだよね。
ちなみに、染谷将太さん演じる堺にボイスドラマを聞かせる声優志望の店長の話は、僕のバイト先での実話が混ざっています。 今何してるかな、ボイスドラマのこと覚えてるかな。

——演出の才能は、先天的か後天的か

井上
CMの演出は「伝えなきゃいけない説明書」みたいな軸となるものがあるけど、映画は断続的なショットの中に“想像させる余白”を見せなきゃいけないから、力学が全然違うよね。小林君も岩崎君も、それを使い分けているように見える。

岩崎
CMの演出でも僕は余白と普遍性、リアリティーは意識してます。CMの演出は尺も限られているし、全フレームに必然性がないといけない。だから100点は出るけど120点は出ないとも感じています。
一方映画は探り探りだけど、「意味や必然性から脱却する!」という気持ちで、自分の感性を信じる。あとは、撮影時にゆらがないように深く内省して、最初にピンを刺す位置を決めたらブレないということが大事ですかね。

小林
僕は“映像の機能・組み立てフェチ”な気がしていて、「こういう設計にしたら、こう機能するだろう」というのを考えて実行するのが楽しいんです。技術職としての演出に近いイメージ。
オリジナル作品を撮影する時はいつも2人で企画・脚本を行っているんですが、編集も自分たちで行っているので、逆に普通の座組みで長編作品を撮ってみたいという気持ちもちょっとあります。客観的な視点を入れるという意味で「エディターを入れたらどうなるんだろう」とは思いますね。

井上
2人のようにCMも映画も撮れるディレクターは少ないと思うけど、もし若手のディレクターが長編作品を撮るなら、どういうステップで進めるのがいいと思う?

岩崎
やっぱり、まずは短編映画かな。短編と長編は全然違うけど、0から1を生み出すということを経験するのが大事。 表現に終始せず、適切に一貫したメッセージを持てるか、軸を持ってしっかり立てるか、といった精神面を鍛えるトレーニングが必要だと思うので。
僕は元々オリジナル作品を撮りたい気持ちがあったけど、OND°の中でも「作家性の出る作品を演出させた方が輝くんじゃないかな」と思うディレクターはいます。平嶋桂子や関口きららとかはそう思う。関口きららはCM制作を手段と割り切らずに楽しめているみたいだから、CMディレクターの才能もあると思うけど。東北新社にはそういうクリエイターのサポートもしてもらいたいな。
大森さんは、映画に特化して仕事を受けたいと思う?

大森
映画には映画の良さがあるけど、「短時間で結果が出て、お客さんの反応が見える」という点でCMの編集は手応えを感じやすいと思うんです。それに慣れてしまっているので、モチベーション的な意味で、映画編集だけだと失速する気はしますね。

岩崎
確かに俺らはCM制作でクイックにお客さんの反応を見ることに慣れているけど、そういう“精神的な報酬”がなかったら、意外とアイデンティティ・クライシスになっている可能性はある。映画を制作している数年間はお客さんの反応が見えないからね。
でも僕がつくづく思うのは、この業界でプロダクションにも、クライアントさんにも、育ててもらった実感があるんですよ。能力や経験がある人は、若手を引っ張り上げてほしいと思います。「監督が制作を」もしかり、「制作が監督を」、「プロデューサーがエディターを」もある。その方が成長できると僕は実感しているし、育ててもらったから育てようとも思っている。

井上
プロデューサーもPMも、いいディレクターと一緒に仕事をしないと伸びない。良い制作たちはみんな、良いディレクターに厳しく鍛えられてきたんだよね。

小林
背負わせてしまっても大丈夫そうな人には任せるけど、そうでない時にはある程度こっちでコントロールできるように一歩引いちゃうことはあるな。「この人はやる気があるな」と思ったら、制作部にとって難易度の高いコンテも描くんだけど。
CMだと最終OKを出す決定権がないことも多いから、僕は“監督”じゃなくて“演出”って名乗るようにしてるんだけど、長編映画の最終責任は基本的には“監督”にあるじゃん。 すべての責任を背負い切らないといけないから、長編映画はプレッシャーが大きいよね。

井上
ディレクションの才能って存在すると思う? 努力して上達するもの?

小林
才能もある気はするけど、演出の技術自体は後天的なんじゃないですかね。

岩崎
僕もそう思う、特にCMの演出に関しては後天的だと思いますよ。
“伝えるタイミング”、“伝え方”などのコミュニケーションを使って、「現実的な制約の中で希釈されているポテンシャルを、いかにクリエイターの頭の中にある状態で世に出せるか」が大事で、それをできる人が作家性を確立していくんだと思うけど、経験で上達すると思います。

——オリジナル作品の創出  

井上
僕は社内で「Tohokushinsha Writers Room(TWR)」というプロジェクトを担当していて、海外の映画会社や配信事業者に向けて、オリジナル脚本の開発・提案に取り組んでいます。『チルド』のような座組みで、社内のクリエイターとともに、東北新社の出資も含めたオリジナル企画作品の製作を第2弾、第3弾として進めていきたいと思っています。
その次の座組みとして、現在企画が進んでいるのが小林くんの作品です。

小林
今僕が企画している長編映画は、「地に足がついているようで全くついていないサイエンスフィクション」です。まだまだ準備中で話せないことも多いんですが、異次元の鯨が出ます。

井上
このミニマムな座組みで制作することで、凝縮した純度の高い作品ができるということを僕らも感じてるので、スケールさせていきたいですね。『チルド』もそうだけど、10年後とか20年後も輝いてる作品を生み出していきたいです。 このサイズ感のまま規模を大きくしていきましょう!