映画『チルド』公開記念 関係者座談会 Part1           岩崎監督✕東北新社制作部✕編集部

テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて明日7月17日(金)公開!

“生きながら、死んでいる”
「第76回ベルリン国際映画祭」にて国際批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞したほか、多くの海外賞にも出品や入選が決定しており、公開前から話題となっている本作。
世界観と地続きで描かれるスピンオフ小説が、KADOKAWAにて書籍化も決定している。
岩崎監督は初長編映画にして、なぜこんなにも話題になる作品をつくり出せたのか?

岩崎監督をはじめ、前作『VOID』でも制作プロデューサーを務めた井上 淳プロデューサー、長束雄介プロデューサー、そして編集を務めたOND°エディター大森優希、NOTHING NEWが映画『チルド』で再集結。
さらにPMとして初映画制作となる鈴木 遥PM、オリジナル作品の制作経験があるOND°ディレクター小林洋介を加えて、座談会を開催!全3回にわたってお届けいたします。

   井上プロデューサー   長束プロデューサー   鈴木 遥PM       岩崎監督       大森エディター      

岩崎監督✕長束雄介ラインプロデューサー、大森優希エディター、鈴木 遥プロダクションマネージャー(聞き手:井上プロデューサー)

2017年の岩崎監督入社以降、共にCM制作を行ってきた井上 淳プロデューサーと、長束雄介プロデューサー、そして構成に関する役割も大きく担った大森優希エディター。さらに本作が岩崎監督との初制作となる鈴木 遥PMの5名に制作の裏話や、東北新社グループ内の制作力・技術力、『チルド』を通して感じた自らの成長について語っていただきました。

——信頼性と熱量があったからこそ完成した作品

岩崎
元々NOTHING NEWと企画開発をしていたんですが、意見を聞きたくて、前作『VOID』で制作を担当してくれた井上プロデューサーと長束プロデューサーに入ってもらいました。
僕が東北新社に入社して1年目からかわいがってくれていたお兄ちゃんたちなので、信頼できてお互い忌憚なく意見が言える関係性なので、今回もぜひお願いしたいと思ったんです。

井上
背景として、僕がグローバルに向けたオリジナルコンテンツの企画制作を目指す「TWR(Tohokushinsha Writers Room)」というプロジェクトを担当しているんですが、『チルド』はOND°所属の岩崎くんによるオリジナル脚本・監督であり、TWRの志に沿った作品ということで出資を伴うオリジナルコンテンツの制作が決定しました。

岩崎
こういう時にサポートをしてくれると、「誰でも映像が作れる時代だけど、会社に所属して頑張ってきた甲斐があったな」と思いますね。
今回長編映画を制作するにあたって、制作プロダクションは東北新社以外に浮かばなかったです。インディーズとメジャーの中間作品で規模は大きいけど予算はない。皆が一番きつく感じる規模感だからこそ、“魂”が必要だと思っていて。「納品できればいい」じゃなく、「絶対にいいものをつくる」という精神性を持っているプロダクションは東北新社だけだと思いました!お世話になっているというのを別にしても、東北新社のスピリットを僕はすごく頼りにしています。クオリティーを守りながら、「1秒あたりに対するお金が、この世で最もかかっている」CMという映像をつくり続けている人たちへの信頼は大きい。あとは、僕もNOTHING NEWも映画製作の経験が少ないことを前向きに捉えて「0から皆でつくりあげていこうよ」と、一緒に頑張ってくれそうだという思いもありました。

井上
先輩たちの活躍はもちろん、今までの歴史があるからこそ、「いいものをつくりたい」というスピリットを持った人たちが集まってるんでしょうね。制作部は「この作品を面白くする」って気持ちがないとダメだと教わってきたし、その気持ちは教えているつもりです。
制作を担当してくれた鈴木 遥は初めての映画制作だったけど、すごく主体性があって良かったよね。

鈴木 遥
岩崎さんが率先して自分を岩崎組の輪に入れてくださったからこそ、意見を言いやすかったです。
映画制作は分業制というイメージがありましたが、岩崎さんの意見や予算を考慮した結果、CM制作を行っているメンバーで進めるのがベストだと判断しました。そこで、映画の進行方法を参考にしつつも、基本的にはCMと同じ体制で撮影準備を行いました。
今回関わってくれた制作スタッフは普段CMを制作しているスタッフなので、撮影内容に対してのアプローチに加え、予算交渉や制作的なケア周りなどのスキルがある。フォローが必要な時は、誰にでも何でも頼むことができて心強かったです。特にPMの阿部ミンナは初期段階からサポートしてくれて、慣れない美術の原稿作りなどもしっかりと取り組んでくれました。

長束
「監督が撮りやすいのが最優先」というのは大前提だけど、『チルド』の撮影にあたっては演出と制作を分業した「映画システム」か、撮り慣れた「CMシステム」、どちらで制作するのか悩みましたね。今回は基本的にはCM制作と同じ座組にしたことで、制作部も演出部的な目線を持ちながら動けたのは良かったと思います。

岩崎
『チルド』はハイコンテクストな作品だから、脚本を読めないスタッフだと厳しいと思っていました。優先順位をつけて「何を捨てるか」の判断をするのも制作の仕事だと思うんだけど、遥はすごく脚本を読み込んでくれたし、初めて一緒に仕事をする僕との距離感もベストだったから、僕も遠慮なく意見を言えた。
脚本を読めたのは学生の頃に演劇をやっていたから?

鈴木 遥
そうですね、元々演劇を学んでいたので脚本を読むのは好きで、脚本に対して自分なりの意見を持ちながら準備に向き合ってました。岩崎さんの初稿を読んだ時に「絶対に面白くなる」と思ったので、井上プロデューサーが制作メンバーを募った時に挙手しました。
「岩崎さんが映画を撮るから」という理由で、限られた予算感の中でもすごく前向きに協力してくださったスタッフばかりでしたし、金額の交渉も全て僕がしましたが、皆さん「岩崎監督の作品なら、何でもやりますよ」という方ばかりで…。岩崎さんとの関係性が強いスタッフさんたちとのコミュニケーションは今までで一番神経を使った記憶があります。

——CMディレクターでは見せないシビアな制作現場  

岩崎
CMディレクターを担当する時は「人が疲弊してまでいいものをつくるのは間違っている」と思っていて、心身ともにいい状態でいいCMをつくってきたし、それで実績を出してきた自負がある。でも『チルド』は初長編映画で僕自身も必死だったし、スタッフみんなを家族だと思っているからこそ厳しいことを言う場面もありました。でも本音を言い合える人たちと一緒に制作できて幸せだったな。

大森
確かにCMディレクターの岩崎さんとは違ったよね。CMは伝えたいことや尺などが決まっていることが多いからこそ、岩崎の中でもロジカルにイメージが固められるし、編集もそのイメージと照らし合わせていくことができる。でも映画だとそれができない部分が多々あって、エディターの僕に委ねてくれたり、こちらから意見を言うことも多かった。

岩崎
大森優希は僕を叱ってくれる数少ない存在。
監督は指示する側になることが多いけど、そればかりだと想定内のものしか出来上がらない。特に今作は明確なイメージが決まっていなくて、大森さんも半分監督的な立場で意見を言い合いながら切磋琢磨できたのが、ベストな距離感だった。エディターと監督の関係で、これより理想的な関係ってないと思う。
最初はOND°だからアサインされただけだったけど、僕と大森さんみたいに相棒になれるんだから、社内にポストプロダクションまで行えるスタッフがいるのはいいですよね。

井上
全作業の中でオフラインが1番大変だった印象がありますが、どうやって進めていったんですか?

大森
まずざっくり2時間くらいの尺に編集しました。その全シーンを、鈴木さんに1シーンずつカードにしてもらったんです。それを並べ替えながら大きな構成の話をして、編集に反映していきました。
『VOID』を編集した時にもシーンを並び替える検証をしていて、その時に構成全体を可視化できないかと思ったんです。『VOID』は短編でしたが、今回の『チルド』は90分の長編ですし、エピソードの順番が前後しても成立する映画だと思ったので、そのようにお願いしてみました。

岩崎
100個近いマグネットカードを並び替えるという狂気の作業でしたね。
過去から未来へ向かっていくストーリーだったらありえない作業なんですが、『チルド』とか『VOID』は抽象的な映画なので因果関係があまりなく、整合性が取れていても「ここにこのシーンがあるのは違う」ということが発生する。構成レベルの相談をしながら編集をしてもらったので、エディターの負担は大きかったですよね。

大森
カードがあって整理しやすくなったとはいえ、「構成レベルで壊して組み直す」という作業は、1から考え直すようなことだったので、大変でした。より良いものにしていく工程とはわかりつつ、辛かったです。

岩崎
CMと違って、脚本から入れたら1〜2年制作をするので「結局何がしたいんだっけ」となるんですよね。そこで1回我に帰る作業工程をしないと収拾がつかなくなるんだけど、大森さんは一緒に付き合ってくれたんです。

長束
コンビニの撮影期間の最終日かな?岩崎が現場であんまり雑談しない日っていうのがありましたね(笑)。

岩崎
この後撮るもの、キャラクターとか、判断の数がすごい多くて(笑)。
東北新社の香盤設計が見事で撮影は1週間で終わったんですが、普通は1週間で映画撮影って鼻で笑われるんですよ。そんなスケジュールでも実現できたのは、全カットをコンテにしてくれたり、綿密に全カットをカメラマンと鈴木 遥と詰められたからですよね。仕方なく削ったシーンもあったけど。

鈴木 遥
全カットのコンテを基に総合スケジュールを作ったところ、理論上撮影できないことが判明したんですよね。岩崎さんは燃えていて「撮るだろう」っておっしゃってましたが。
最後の美術打ち合わせ(オールスタッフ打ち合わせ)は10時間くらい打ち合わせしましたよね(笑)。

岩崎
長編映画はスタッフと一緒にいる時間が長いから、単純に好きな人たちとじゃないと撮れないと思いましたね。 制作部もエディターも、もちろん能力は前提だけど、やっぱり人間性はめちゃくちゃ大事。そのあたり、東北新社は教育がいいのか標準装備ですよね。

井上
まさにCM ディレクターと映画監督の違いはそこにあると思っていて、映画監督の方ってスタッフに対する愛情がすごい。だからこそ予算がなくてもついていく人がいるんだな、と思いました。

岩崎
もともと僕は情に厚い方だけど、スタッフのクオリティーコントロールも監督の仕事の一環だなと学んだのは、東北新社で制作部の経験を積めたからだと思います。制作部として働いた経験があるからこそ、予算に対する感覚も学べましたし。

——CM制作に還元されたこと   ​

鈴木 遥
ディレクターとの関係性にもよるんですけど、コンテを見た時に「このシーンにはこういうことがあったら面白いのでは」と、映画の経験前よりもディレクター目線で考え、提案を進んでできるようになったのはCM制作に還元された部分だと思います。

大森
映画とCMの編集では求められることが大きく違うので、これというのが難しいですが、CMの編集作業が短く感じるようになりましたね(笑)。『チルド』の悩みながら延々と作業していた日々に比べると、少し物足りなさを感じることがあるかも。
もちろん、どちらの仕事が良い悪いとは思っておらず、いろんな作品を経験したいです。そういう意味で、僕の所属しているOND°は、属人的になりがちな指名の仕事だけでなく、新規のいろんな仕事を用意してくれるので、いい環境ですね。エディターとしての幅が広がると感じています。

岩崎
確かにいろんなジャンルの仕事を受けた方が、自分の「意外とこんな仕事が得意なんかい」を見つけられるし、ハマるものを探すこともできる。苦手なことに挑戦する機会も与えられる、という意味でいい環境だよね。
大森さんのすごく好きなところは、「エディターが見るのは素材であって人間ではない」というところ。「僕が見ているのは素材。僕は撮影現場にいたわけじゃなく、素材として送られてきたものを組み換えるという作業をする」と。
『チルド』では脚本にも意見をもらったけど、“編集のタイミングで初めて素材を見る”という客観的な目線を持つ人がいることで、作品の奥行きを引き出してもらえたと思います。