映画『チルド』公開記念 関係者座談会 Part3                 岩崎監督✕プロデューサー

テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて大ヒット公開中!

“生きながら、死んでいる”
「第76回ベルリン国際映画祭」にて国際批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞したほか、多くの海外賞にも出品や入選が決定しており、公開前から話題となっている本作。
世界観と地続きで描かれるスピンオフ小説が、KADOKAWAにて書籍化も決定している。
岩崎監督は初長編映画にして、なぜこんなにも話題になる作品をつくり出せたのか?

岩崎監督をはじめ、前作『VOID』でも制作プロデューサーを務めた井上 淳プロデューサー、長束雄介プロデューサー、そして編集を務めたOND°エディター大森優希、NOTHING NEWが映画『チルド』で再集結。
さらにPMとして初映画制作となる鈴木 遥PM、オリジナル作品の制作経験があるOND°ディレクター小林洋介を加えて、座談会を開催!全3回にわたってお届けいたします。

    下條プロデューサー   岩崎監督   林プロデューサー          井上プロデューサー   長束プロデューサー 

岩崎監督✕林 健太郎プロデューサー、下條友里プロデューサー(聞き手:井上プロデューサー、長束ラインプロデューサー)

『チルド』の企画プロデュースから宣伝配給業務も担当した映画製作レーベル「NOTHING NEW」の林 健太郎プロデューサーと、下條友里プロデューサーをゲストに迎え、『チルド』の原点や劇場への営業方法、そして「NOTHING NEW」が目指す未来について語っていただきました。
制作部と同じく、「NOTHING NEW」としても大きな初挑戦となった『チルド』で感じたこととは?

——自分の嫌いなところをさらけ出した作品


岩崎とはコロナ禍に「劇団ノーミーツ」の立ち上げメンバーとして出会って、Zoomを使った短尺映像を作ったんですが、見たことのない面白さを感じて「オリジナル映画をいつか一緒に作りたい」と思っていました。
2022年にNOTHING NEWを立ち上げ「短編映画を作ることから始めよう」と決めた際、岩崎に1番最初に連絡をしました。そして制作したのが、岩崎監督初短編映画『VOID』です。

岩崎
その『VOID』をロッテルダム映画祭に出品したんですが、社会派・アート寄りなアウトプットをした短編映画が多い中、『VOID』はナラティブなエンタメ枠。「これは(賞を)獲ったでしょ」と思いました。なのに受賞を逃してしまって、会場近くの公園ですぐに林と2作目を撮ることを決めました。
『チルド』は、自分の嫌いなところを作品にしてるんですよ。ある種自罰的に「みんなに見てもらいたい」という気持ちでつくっています。そういう制作意図含め、自分の思いを包み隠さず伝えられたのは東北新社、NOTHING NEWのみんなを家族のように感じられたから。

——戦略的なコンセプトが、作家の原点と奇跡の合致


基本的な宣伝方針は「できることは片っ端から全部する」(笑)。
細かな戦略としては「鑑賞体験の総体を上げること」をNOTHING NEWの軸として置いています。もちろんメインは劇場での映画鑑賞。 その上で、プロモーションやグッズなど、鑑賞時だけでなく、見る前から見終わった後まで含めた『チルド』の世界感を楽しんでもらいたいです。

下條
あとは既存の方法にとらわれないことですかね。「映画宣伝のセオリー」はたくさんあると思うのですが、「『チルド』に必要か」とか、「もっと他に有効な予算の使い方はないか」を議論しながら試行錯誤しています。
以前製作した中編作品の劇場ブッキングなどを1人で行っていた時に「短編や中編映画は劇場興行なんてできない」とよく言われていたんです。でも作品が良ければ多くの方が見にきてくれた。その時に「面白い作品だったら尺は関係なく劇場にも見に来てくれるんだ」と思いました。

岩崎
みんなが知っている“コンビニ”という圧倒的なフックとメディアミックスしやすいモチーフというのも、攻めた宣伝ができる理由なんじゃないかと思います。時代性も意識していなかったし狙ってもいなかったけど、映画祭で受賞や入選をしているのは“コンビニ”というのが大きいと思う。


裏話ですが、企画協力のTaiTanと企画の骨子を考えた時、戦略的にも宣伝的にも「コンビニはいいかも」という話は出ていました。でも岩崎が乗り気にならなかったら意味が無く、「戦略的に」という理由ではなく、岩崎が内省して「これがいい」と思う企画でつくって欲しかったから、打ち合わせでこちらから決め切ることはしなかった。
それが結果的に、岩崎の原点としてこの題材に辿り着き、噛み合ったので良かったと思います。

岩崎
NOTHING NEWの戦略と、俺の実家がコンビニという奇跡が起こりました。
でもそういう気持ちを全く俺に出さなかったのは、すごくいいプロデューサー。出されていても受けたかもしれないけど…作家1人1人に対してベストな距離感と接し方をちゃんと考えてくれてるな、と思います。
2人からしたら作品がヒットするかどうかはNOTHING NEWの存亡にも関わることなのに、商売っ気を一切感じさせないんですよね。商売っ気を感じると「ヒットさせなきゃいけないなら、こういう話がいいかな」とか、気を遣っちゃうので。

下條
NOTHING NEWの作品で50館規模で公開が決まった作品は初めてです!さらに多くなるかもしれません。
ベルリン国際映画祭に入選する前は、公開劇場は決まっていませんでしたが、ベルリン国際映画祭に入選してすぐに「今年は日本作品の入選が少なくて、新人で唯一です」という切り口でアプローチしました。
ベルリン国際映画祭での受賞時はもちろん、染谷さんのポスタービジュアルを公開した時はメディアに大きく取り上げてもらえたので、それをフックにまた劇場にアプローチをかけて公開館数をどんどん増やしていきました。

岩崎
プレゼンスとかアティチュードで掻い潜るようにしてのし上がってく人たちがいる中で、こうして正攻法で挑んでいる人たちに背中を預けられたら、もう出し惜しみできないですよ。「ビジネス戦略に頼らないなら、俺がいいものを作るしかないな」と、我々作家のモチベーションも上がるんですよ。

——作品の純度を保つことが成長への最短ルート

井上
NOTHING NEWは“才能が潰されない世の中”にしたいというビジョンがありますが、どこからそういう思いに至ったんですか?


高校生の時にクラスメイトが制作した自主制作の映画を見て、メジャー映画と同じくらいの面白さを感じて衝撃を受けたことがきっかけです。その頃から「いろんな才能のある人が映画をつくればいいのにな」と素朴に思っており、その延長線上に今のNOTHING NEWがあります。
ただ映画は「芸術」でもありながら、多くの人数が関わり予算をかけて制作する「商品」でもある。故に、自由な映画づくりをすることはそう簡単ではありません。その矛盾と難しさが、映画づくりの面白さであり、本質ではないか、とも思います。ビジネス的な話でいうと、「岩崎のような作家が自己解放して、30億円規模の映画をつくったらどんな作品ができるんだろう」と思うし、つくってみたい。そのためにはレーベルとして大きくならなきゃいけないんですけど、そのために自分たちスモールチームの最短ルートは「突き詰めたものづくり」なんじゃないかという感覚が、長編製作を通して出てきました。
純度の高いものを製作した結果、より広い人たちの心を打つ。大きくなったらさらに純度を高くしていく、という勝負を繰り返していきたいです。規模が大きくなると、スタッフ数やビジネスで関わらなければいけない人たちが増えてくるので、いい意味で排他的で純度を高く保っていきたいと思っています。

下條
座組みも含め、いろんな会社や人がいろんな思惑で関わるようになると、 気を遣わなきゃいけない相手が増える。そうなると、本来作品に関係のないことに気を遣わないといけなくなってしまって、本質から逸れていくじゃないですか。それは良くないと思っています。


規模感が上がっても好奇心とピュアネスを加速させ、試行錯誤を続けていくことで、結果的に面白い未来が待っていると思っています。
そうやって純度を落とさなければ岩崎も売れていくし、より実験的な挑戦に踏み込むハードルが下がる。岩崎がどんどん有名になっていけば、「岩崎の映画をつくっているNOTHING NEWの作品なら、無名の10代監督の作品でも見てみるか」となればいいなと。その時一番挑戦的で面白い実験を、ずっと続けたいです。